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レイサナ14

 ――雪が降ってきた。
 吐いた息は白く染まって、冷えた空気に散ってしまう。
 



 ホワイトクリスマスだ、と早苗は思った。
 「霊夢、寒くないですか?」
 「早苗こそ」
 こちらへ来てから、そういう外の世界で行われるイベントとは無縁になった。
 霊夢の話によれば、人里では小さなツリーが飾られているようだが、今の時期は忙しくて見に行くことも出来ない。
 ようやくできるのはこれくらい。
 純白の境内を、二人で手を繋いで歩く。繋いだ手は素手だが、決して寒くはなくて。
 ただそれだけの行為。きっと、端から見れば、ただの散歩に見えるのだろう。
 けれど。
 「これから新年だからね…どっちも忙しくなるわ」
 今日からの約一週間、こうして簡単に会うことすらできないのだ。
 だから今、こうして手を繋いでいる。
 明日から、新年の準備で会えなくなる。
 増える参拝者に対抗するため、お互いの神社は神やらスキマやらを駆り出してのおおわらわとなるのだ。
 だから、私たちが今年会えるのはこの日が最後。そんな日に。
 
 ――あら、ちらついてきたわ。ねぇ、早苗、散歩しましょう?

 雪が綺麗よ――そんな言葉にほだされて、寒いというのに外へ出た。
 寒そうな手を見て、一組しかない手袋を貸して外へ出た。
 けれど、結局私は――東風谷早苗は雪も景色も見なかった。
 そんなものよりも、ちらちらと舞う雪を浴びる霊夢の方が、よほど綺麗だったからだ。
 「早苗」
 「?」
 そんな雪の中、突然霊夢が声をかけてくる。
 なんだろう、と私は視線を外さないまま立ち止まった私に、霊夢は顔を近付けて――
 一瞬だけ、唇をふれさせた。
 「――さっきから、私ばかり見てる」
 そんなに欲しかったの、と、赤みが差した顔が笑う。
 ――そんな訳じゃなかったけれど。
 「――霊夢こそ」
 自分ばかり見てると気付けるほどに、私しか見ていなかったくせに――。
 このままなのも癪なので、お返しに私からも霊夢に唇をつけた。
 中でたった一回だけ舌と舌を合わせて、そのまま
 『ありがとう』
 声にならない声を出して、唇を離した。
 今更、面と向かって言いはしない。
 お礼なんて、年の瀬に言うものではないのだ。そんなものは、いつかの別れに取っておけばいい。
 昔、誰かが行っていた。「ありがとう」と一回口にするたびに、感謝は、愛は一緒に少づつ出て行ってしまう。
 だから、本当に好きな人に対する「ありがとう」は、最後の一回にとっておけと――。
 そのまま、何も言わずに私たちは抱き合った。
 雪の中、お互いの温もりを感じるように、素手はしっかりと絡めたまま。
 霊夢の右手を包んだ毛糸が私の背中を回って。
 私の左手を包んだ毛糸が霊夢をこちらに抱き寄せて。
 庭に出る前の、一連のやりとりを思い出す。

 ――あら、手袋どこにいったのかしら。
 そんなことを言う霊夢に、貸しますよ、と自分の手袋を差し出した。
 じゃあ遠慮無く、と霊夢は私の手袋を片方だけ受け取って――。
 片方はこうしておけば、寒くはないでしょ。
 そうして霊夢は私の手に、指を絡めたのだ。
  
 
 早苗の手は、左手しか手袋に覆われていないけれど。
 霊夢の手は、右手しか手袋に覆われていないけれど。
 余った手は、お互いにしっかりと握り合って――。
 なんにも覆われていない手だけれど、全然寒くはないし、冷たくもなっていない。
 だって、本当に不思議なことだけど。

 手袋をつけた手の方が寒いなんて――ね。


 しんしんと雪が降る。
 誰もいない境内で二人、繋いだ手に寄り添うように。
 しんしんと雪が積もる。
 お互いの手を胸に抱いて――。 





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 あとがき

  るーみあきゅーから極力3人称使うようにしていたり。